紅茶を美味しくさせるためのケトル
リンアンではお湯を沸かすケトルにも拘りがあります。
一見ステンレスに見えるリンアンのお湯を沸かすケトル。これは、ステンレスではなく銅で出来た、それも紅茶を淹れるために開発されたイギリス製のケトルなのです。
銅で作られたケトルですが、メンテナンスをし易いようにクロームメッキがされています。
そのため、一見するとステンレスに見えてしまうのですが、実は銅で出来ています。
リンアンは、銅のケトルに拘りました。
それは、銅でできたケトルは紅茶を美味しくしてくれるからです。
何故銅でできたケトルの紅茶が美味しいかは分かりません。
ただ、銅でできたケトルで沸かしたお湯で淹れた紅茶は、誰に飲んでいただいても明らかに美味しいのです。
それは紅茶を淹れる腕が上がったかと思うほど大きな違いが有ります。
それに気づいたのはリンアンを始める1年ほど前の事でした。
おしゃれなケトルが欲しくてデパートに行き、気に入った銅のケトルを買ってきて、嬉しくて嬉しくて、さっそく紅茶を淹れてみました。
すると、紅茶が明らかに美味しくなったのです。ケトルの材質の他に原因は考えられません。
「気分の問題。お気に入りのケトルを買ったためのメンタルな作用かもしれない。」そうは思いましたが、そのあまりの明らかな味の違いから、リンアンで使うケトルは銅製のケトルに決めました。
その銅製のケトルを探した中から選び出したのが、イギリス・シンプレックス社が1930年代から作っている紅茶用のこのケトルでした。
「気分の問題かもしれない。」
この問題は、リンアンの開店後、お客様に集まっていただいて色んなケトルでお湯を沸かし比べ、飲み比べをしてみることで、「気分の問題では無く、明らかにケトルの材質によって紅茶の味が変わる。」事が証明されました。
銅、ステンレス、鉄、ガラス。
お客様に集まっていただいて、これらのケトルで同時にお湯を沸かして飲み比べてみる。
そんな実験を、2年の間をおいて2回おこなってみました。
その結果は、明らかにケトルの材質によって紅茶の味が違い、銅のケトルで入れた紅茶を好む人が多いという事実です。
銅のケトルで淹れた紅茶は紅茶の特徴も良く出て、まろやかで美味しい紅茶を楽しむことが出来ます。
ガラスのケトルで淹れた紅茶はストレートな味の紅茶になります。
実験道具のようなガラスのケトルは、お湯に何の変化もさせず、良くも悪くも茶葉のそのままの味を出してくれる感じがします。
鉄のケトル(鉄分が良く出るように古い茶釜を使いました) の場合は、お茶のタンニンと鉄分が結合し、タンニン鉄となり、黒く濁ったような紅茶になります。
それは見た目に美味しくないように見えますが、それが美味しいと感じるかどうかはその人の好み次第です。
紅茶の渋み成分であるタンニンはタンニン鉄になる事によって渋み成分ではなくなります。
つまり、鉄のケトルで沸かしたお湯で紅茶を淹れた場合、紅茶の渋みが嫌いな人にとってはその紅茶は、「まろやかで美味しい紅茶」となります。
しかし、紅茶の美味しい渋みを楽しみたい方にとっては、「抜けたような紅茶」に感じるのです。
これはこれで有りだと思います。しかし、多くの人に紅茶を味わっていただく、そして見た目でも紅茶を楽しんでいただきたい紅茶専門店としては、鉄のケトルは使えません。
ステンレスの場合は、「金気を感じる紅茶」となってしまいます。
この「金気」は、ほとんどの方が美味しいと感じません。
この事に気づいて、紅茶を飲んだだけでステンレスのケトルを使っているか、分かるようになって来ました。
それほどステンレスのケトルの味ははっきりとわかります。
このケトルを選んだ理由は紅茶の味だけでは有りません。
紅茶を淹れるための工夫が素晴らしいのです。特に紅茶の専門店をするには、このケトル以外のケトルは考えられません。
業務用としてお湯を沸かす場合、必須の能力として「早く沸く」事が求められます。
「早く沸く」は紅茶の美味しさに取っても必要なことですが、お客様をお待たせしないために、そして多くのお客様に同時刻にご来店いただいた場合、大量の、それも「沸かしたて」のお湯が必要となります。
その為には、「早く沸く」そして「素早くお湯が注げる」機能が必要となります。
このケトルは、その「早く沸く」そして「素早くお湯が注げる」のふたつの機能も持っているのです。
「早く沸く」機能のためには、熱伝導の良い銅で有ることも寄与していますが、もっとも寄与しているのは、「炎の熱を逃がさない。」という機能です。
このケトルの底には、周りに逃げてしまう熱を吸い取るため集熱コイルが付いているのです。
こんな工夫がされたケトルを他で見たことがありません。
逃げてしまう炎もお湯を沸かす熱に変えてしまう。その機能がお客様をお待たせせずに紅茶をお出しするために絶大な効果を発揮しています。
もうひとつの「素早くお湯が注げる」機能の工夫は蓋と注ぎ口にあります。
「沸かしたて」のお湯を作り、「沸かし過ぎ」を防ぐためには、沸いたら知らせる「笛吹き」の機能が必須です。
ここでちょっと考えていただけますでしょうか?
「笛を鳴らす」ためには、沸いた蒸気が「笛を通らなければならない」のです。
沸いた蒸気が「笛を通る」ためには「蒸気が他に逃げない」工夫が必要です。
その為に、他の笛吹きケトルは、「注ぎ口に笛が付いている」構造になっています。
そして、「注ぎ口に笛が付いている」ケトルでは、当然ですが、お湯を注ぐためには、「笛を外さなければならない」のです。
この「笛を外さなければならない」という動作は、「素早くお湯が注げる」という機能を妨げます。
つまり、笛吹きケトルは「素早くお湯が注げる」という機能と矛盾するケトルなのです。
しかし、このケトルは独自の特許機構でその矛盾を解決しました。
このケトルの笛は、実は蓋の裏側に付いています。
このスリットが笛の役目をしています。
ここに笛を付けることで注ぎ口には障害物が無くなり、直ぐにお湯が注げることが出きるようになりました。
しかし、注ぎ口から蒸気が逃げてしまっては、そもそも蓋に付いた笛がなりません。
それをこのケトルは意外な方法で解決してしまったのです。
このケトルの注ぎ口にはなぜか凹みが付いています。
実はこの注ぎ口の中には球体が入っていて、お湯を沸かすときには蓋をして蒸気を逃がさないようになっているのです。
しかしお湯が沸き、お湯を注ごうと傾けるとその球体は転がって蓋が外れるようになっているのです。
球体が外れても、それがまた注ぎ口に詰まってしまえばお湯は注げなくなってしまいます。
今度はその球体を止める役割をするのが先ほどの凹みなのです。
お湯を沸かしているときには球体が蓋をして蒸気を逃がさず笛を鳴らす。
いったんケトルを手に取り注ごうとする瞬間、何もしなくても球体の蓋が外れ、自由にお湯が注げるようになる。
お湯を沸かし過ぎないようにし、なおかつ熱いお湯を一刻も早く注ぐことが出来るケトル。
まさに紅茶を沸かすために考え抜かれたケトルではないでしょうか。
このケトルと出合った事は、リンアンの紅茶を美味しくさせた大きな要因である事は間違い有りません。
この紅茶を沸かすために作られたイギリスのシンプレックス社の銅製笛吹きケトル。
これだけでは無く、このケトルを最大限に生かす工夫がレンジに有ります。
そのレンジのお話はこちらから。