ジャンピング
の 重要性

その1

その2

その3

その4


Talking ofTea
(原文
)

 

紅茶の抽出における ジャンピング の重要性について    その1

「ジャンピング」という紅茶用語は、日本でしか通用しない紅茶用語です。

世界中で、「ジャンピング」と呼ばれている現象を重要視している国は、日本以外には有りません。

日本で「ジャンピング」と 呼ばれている  現象は、美味しい紅茶を淹れるために、全く必要有りません

 でも、「ジャンピング」と呼ばれている現象が必要かどうかいうことと、紅茶を美味しく淹れるために重要かどうかということとは、次元が違う話なんです。

と言っても、判りにくいですね。

これから、ジャンピングという言葉の元となったイギリスの、ガーバス・ハックスレーさんが書いた「Talking of Tea」という本に、ハックスレーさん自身がどう書いたのか、ハックスレーさん自身は何が言いたかったのかを、「 紅茶の実験室 Liyn-an Tea Club 」での実験結果も交え、数回にわたって解説します。

このシリーズのコラムを最終回まで読むと、何故、世界の紅茶関係者がジャンピングを重要視していないか、そして何故、私が、おいしい紅茶を淹れるために必要のないジャンピングを重要視しているかがよく判りますよ。

まず、その元となったハックスレーさんの本に、なんと書かれているのか、このページをご覧ください。(別窓で開きますから、必要なときに参照してくださいね。)
http://liyn-an.com/tea_club/20/jumping_tea.html
上記のページには、「Talking of Tea」の中から、日本でジャンピングと呼ばれている現象について書かれた部分の原文と、私が訳した訳文を掲載してあります。

原文を読みたい方は上のページを読んでいただくとして、ここでは訳文を中心に解説していきますね。

ハックスレーさんの文章の中で、ジャンピング自体について書かれた部分はこの部分です。
http://liyn-an.com/tea_club/20/jumping_tea.html#03J

> 非常にシンプルな実験が、これらのルールを証明してくれます。
> 三つのガラスのタンブラーを取り、それぞれに茶葉の量を測って
> 入れます。(8オンス:約227g のグラスに対して、1/12オンス:約2.4g
> の茶葉が適量です)
> 最初のグラスは、沸騰していないお湯を注ぎます。(お湯の温度は、
>190°F: 約88°C)
> 2番目のグラスは、沸騰しすぎたお湯を注ぎます。(10分くらい沸
> かし続けたお湯)
> そして、3番目のグラスは、沸騰したてのお湯を注ぎます。
> それぞれに6分の抽出時間を与えます。
> その結果は、明白に見ることが出来ます。
> 一番目のグラス(沸騰していないお湯)は約半分の茶葉がグラスの
> 上に浮かんだままになっていて、残りが底に沈んだままになって
> います
> 2番目のグラス(沸騰しすぎたお湯)のグラスの茶葉は全て、抽出
> 時間の最初から最後まで、グラスの底に固まっています
> しかし、沸かしたてのお湯で入れたグラスでは、すぐに約2/3の茶
> 葉が上に浮かび、そして約3分後に全ての茶葉が底に沈むまで、
> 茶葉は底から上へ、上から底へと循環します。
> この3番目のグラスだけが、茶葉が完全に開き、その成分が引き
> 出されました。

「 紅茶の実験室 Liyn-an Tea Club 」では、この実験をそのまま再現してみました。その結果、全く同じように、沸騰していないお湯では茶葉が浮いてしまい、沸騰したてのお湯ではジャンピングが起こり、3分で殆どの茶葉が沈み、沸騰しすぎたお湯では、最初から茶葉は沈んでしまいます。

そして、沸騰したてのお湯で淹れた紅茶が一番美味しいのです。でも、ハックスレーさんは、「茶葉が浮いたり沈んだりしたから、紅茶が美味しくなった。」とは、どこにも書いていませんよね。

読めば判りますが、あくまでもこの実験は、「沸騰していないお湯」と、「沸かしたてのお湯」と「沸騰しすぎたお湯」の3種類のお湯での実験なんです。

「沸かしたてのお湯」で淹れた紅茶が美味しい事は、世界中の紅茶関係者が体験的に知っている事実です。ですから、世界中の紅茶関係者が「沸かしたてのお湯が重要だ。」と言っているんです。ジャンピングではなくて。

あくまでも、美味しい紅茶を淹れるのに必要なのは「沸かしたてのお湯」であり、理想的な条件のお湯の場合、日本でジャンピングと呼ばれる現象が、たまたま起こっているだけなんですね。

もう少し詳しく見てみましょう。ハックスレーさんは、この実験を抽出時間6分で行っています。

「何故、6分?」

そのヒントは、もう少し前にあります。http://liyn-an.com/tea_club/20/jumping_tea.html#02J

> 茶葉を充分に抽出させるために、専門のプロテイスターは、5〜
> 6分の時間を使います。
> でも、普通のお茶好きな方のためには、5分位がいいでしょう。
> 最低でも3分以上は蒸らしましょう。

ハックスレーさんは、「プロテイスターは5〜6分蒸らす。」と書いています。だから、6分で実験をしたんですね。
でも、日本でジャンピングについて書かれるときは「ジャンピングが終わった時、美味しく抽出できている。」と書かれていませんか?
「あれぇぇぇ....?」^^;

ハックスレーさんの実験でも、3分間で茶葉が全部沈んでいます。でも、ハックスレーさんは、茶葉が全部沈んでから、更に3分抽出してますよね。

日本の紅茶の本に書かれていることと、違いますよね。^^;

このヒントは、ハックスレーさんがどんな茶葉を使って実験したかを検討してみるとよく判ります。

ハックスレーさんは、イギリスの植民地時代のセイロンの宣伝局に長く努めた人です。国際紅茶市場拡大局の副会長も務めています。
という事は、たぶんセイロン紅茶でしょうね。

それは、こんなところからも判ります。http://liyn-an.com/tea_club/20/jumping_tea.html#04J

> 普通の紅茶とハイクオリティーセイロンブレンドとの間には、天> と地ほどの喜びとリフレッシュ効果の差があります。

相当なセイロン紅茶びいきだったと思われます。その当時、セイロンでは、まだローターバンと呼ばれる挽き肉機のような機械で作る、現在の細かく引きちぎられ揉捻されたBOPの茶葉ではありませんでした。

参考:ローターバン
http://liyn-an.com/lanka/1998/lanka02.htm
http://liyn-an.com/lanka/2000/matakelle03.jpg

ダージリン紅茶のようなオーソドックス法で作るOPサイズの大きな茶葉が一般的です。
皆さんはダージリン紅茶は何分蒸らしますか?

殆どの方はセイロン紅茶(スリランカ紅茶)より長く蒸らすのではないでしょうか。人によっては、5分から10分くらい蒸らす人もいます。

当時のセイロン紅茶が、OPサイズの紅茶だったとすれば、ハックスレーさんが書いた

> 専門のプロテイスターは、5〜6分の時間を使います。

というのは、非常に納得できる蒸らし時間です。
ここで一つ重要なことは、「茶葉の種類によっては、茶葉が全て沈んだ時が美味しい時では無い。」ということです。

あくまでも「茶葉が沈んだ時が美味しい時」というのは、大手紅茶会社の製品に多い、細かいサイズのBOPサイズの紅茶の話です。茶葉によっては、茶葉が全て沈んだ後も、もう少し蒸らした方が美味しいのです。


ここでもう一つ落とし穴があります。
ハックスレーさんの実験に、ツッコミ を入れてしまいます。

この実験、実は紅茶を飲まなくても、沸かしたてのお湯で淹れた紅茶が一番美味しいということは、想像できてしまいます。^^;

「紅茶の美味しさは、飲まなければ絶対に分からないぞ!」

はい、その通りです。でも、「多分これが美味しいだろうなぁ。」というくらいの推定は出来るのです。

だって、ハックスレーさんはこう言っているんですよ。

> 茶葉を充分に抽出させるために、専門のプロテイスターは、5〜> 6分の時間を使います。 でも、普通のお茶好きな方のためには、5分位がいいでしょう。
> 最低でも3分以上は蒸らしましょう。

そして、ハックスレーさんは、3つとも6分で実験しているのです。

ここで、その専門のプロテイスターがどんなお湯でテイスティングしているか想像してみましょう。

沸騰していないお湯でテイスティングしていると思いますか?
それとも、いつも10分間沸かし続けていると思いますか?

1日に数百種類の紅茶のテイスティングをしているんですよ。

温度計を見ながら、「88℃だ、それ淹れろ!」なんてことは絶対にしてないはずです。沸いたら次々と抽出しているはずです。彼らは、いつも沸かしたてのお湯でテイスティングしているのです。
そして、沸かしたてのお湯の時の最適の抽出時間は?

> 茶葉を充分に抽出させるために、専門のプロテイスターは、5〜 6分の時間を使います。
> でも、普通のお茶好きな方のためには、5分位がいいでしょう。
> 最低でも3分以上は蒸らしましょう。

なんですね。もう判りましたか?

つまり、ハックスレーさんは、『沸かしたてのお湯の場合に、一番美味しい抽出条件』で、この実験をしているんですね。

その美味しい抽出条件から、お湯の状態を変えてしまったら....。

普通は「最適の抽出条件から、どこかの条件を変えると味は落ちる」と、考えますよね。

ほら、この実験なら、「たぶん、沸かしたてのお湯で淹れた紅茶が一番美味しいだろうなぁ。」と、推定できたでしょ。

きっと、低い温度で淹れた紅茶は、もっと長い抽出時間の方が美味しかったでしょうね。

沸騰しすぎたお湯で淹れた紅茶は、もう少し短い抽出時間の方が良かったかもしれません。

この実験を15分の抽出時間で実験したらどうだったでしょうか?
もし、2分の抽出条件で実験したら....。

結果は違ったかもしれません。

どちらにしても、抽出条件のうち、お湯の状態を変えたら、そのお湯の状態ではどれくらいの抽出時間が一番美味しいかを調べた上で、最適な抽出条件同士で比較しなければ、本当にどのお湯ので淹れた紅茶が一番美味しいかは判らないはずです。

抽出時間だけでなく、茶葉の量も変える必要があるかもしれません。
場合によっては、茶葉の種類も変えなければいけないかもしれないのですよ。

ほら、「ダージリンのファーストは、少し湯温を下げた方が美味しい。」とか、聞いたことは有りませんか?
好みにもよりますが、ヌワラエリアの紅茶も、少し低い温度で淹れた方が美味しいと感じる人は多いはずです。

今、私達は水だし紅茶も楽しむようになりました。

「紅茶はジャンピングさせなければ美味しくない。」と、言ってしまったら、「沸騰したてのお湯でなければ紅茶は美味しくない」と、言ってしまったら、水だし紅茶は、とんでもない事をしていることになります。

ロシアやトルコでは、一日中沸かし続けているサモワールのお湯で紅茶を楽しんでいます。インドのチャイも一日中沸かし続けています。
これも、とんでもない事になってしまいますよね。

どんなお湯が最も紅茶を美味しくするかについては、それぞれのお湯での最適条件を見つけてから比較しなければ、本当の結果は判りません。

でも、ハックスレーさんの実験が無意味だと言っているわけでは、決して有りません。

沸かしたてのお湯で淹れた紅茶が美味しいことは、世界中の紅茶関係者が体験している紛れもない事実ですから。

そして、ハックスレーさんの実験は、私達にジャンピングという、重要な現象を教えてくれた実験なんですから。

今回は、ジャンピングの重要性には何も触れず、ハックスレーさんの実験にツッコミを入れたところで終わってしまいましたが、次回はジャンピングがどういう現象かを解説しながら、紅茶の美味しさとジャンピングの関係についてお話ししますね。

次回をお楽しみに。

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