2002/9/25の 第8回リンアンティークラブは、ポットの温度変化を測定しました。

集まったポットは、こんなポット達。これだけじゃないのですが。 ポットの詳細は、下の方に表にしておきましたので、参考にしてくださいね。

さて、このポット達の中では、お湯の温度がどのように変化していくのか、それを時間と共に記録しました。


左の写真が、その記録を担当してくれた、温度データロガーと呼ばれる装置です。

TandD という会社の製品で、「おんどとり」というユニークな名前の製品です。
名前はユニークですが、1度に2つの温度を、8000データまで記憶してくれます。測定間隔は1秒から60分まで。60分間隔に設定すれば1年近くのデータが記録できてしまうという優れ物。
優れているのは、そのデータを、その場でパソコンに取り込んで、グラフ化してくれてしまうのです。

TandD社は、もともと、こういったデータの処理ソフトを作っていた会社で、そのソフトを生かすために、何を測定させようか?と、考えた結果が、この「おんどとり」だったのですね。 さて、余分な話は置いておいて、これが、測定した全データです。 こんな風に、測定したその場でグラフにしてくれて、拡大縮小、自由自在、ついでにその場でプリントアウトも出来てしまう。
もっとも、今回は予想以上にいろいろな種類のポットが集まり、ひたすら温度測定をくり返すことになりましたが。^^;

以下が、測定したポットの詳細です。画像をクリックすると、どんなポットか、大きな画像で見ることが出来ます。
形状メーカー・名称材質重量(g)湯量(cc)
ノリタケ・9990大ボーンチャイナ 441660
ノリタケ・9990小ボーンチャイナ 299350
プレミエール・オーロラ(\100SHOP)ガラス 224580
ハリオ・ドナウガラス 264480
陶器 766870
陶器(アザーウエア) 915920
ハリオ・ティーサーバーガラス 297890
銀(真鍮に銀メッキ?)682830
すず合金(ピューター)518660
ステンレス 7701000?
ノリタケ・ヘミングウェーボーンチャイナ 525760
ノリタケ・ウェディングモールボーンチャイナ 353400
陶器 362530
ハリオ・ハリオールガラス 216530

このポットを2つづつ同時に熱湯を注いでいきました。

温度測定は2回づつ。
はじめは、常温のポットに、そのまま熱湯を注ぎます。
2回目は、その熱湯を捨てて(つまり、ポットを温めた状態)、もう一度、熱湯を注いで、温度の変化を測定しました。

以下が、その温度変化のグラフです。
データをエクセルで整理して、全てのデータを重ねて表示しました。

画像が大きいため、別窓で表示するようにしてあります。

ポット内の湯温の変化グラフ【ポットを温めない場合】
ポット内の湯温の変化グラフ【ポットを温めた場合】

このグラフで、もっとも保温性の良いのは、ステンレス性のポットでした。そして1番保温性の良くないのが、ガラス性の、ハリオ・ドナウ。
紅茶の本には、よく、「ガラスのポットは良くない」と、書かれています。
「ほら、やっぱり。」と思うと、その他のガラスのポットは、それほど悪くないんですね。「紅茶には適している」と書かれているボーンチャイナのポットと比べても、保温性で見る限り、それほど悪くもないようです。

ハリオール、とか、メリオールと呼ばれる、茶葉を押し込んで紅茶を入れるポットは、本来、コーヒー用のポットで、海外のデパートなどでは、コーヒー器具売り場に並んでいるのですが、これも普通の紅茶の本では「良くない」と、書かれています。
でも、このグラフを見る限りでは、悪くないですねぇ。
実は、私も「あまりよくない」と、言っていたりします。^^; m(_ _;)m

ポットの材質や、大きさ、重量などには、特に関係するようなものは見られません。
どうも、個々のポットの形状などによる違いのようです。
測定条件の詳細な違いが影響している可能性も否定できません。

しかし、明らかに良い傾向を持っているのが、なんと、金属性のポットなんですねぇ。(@_@;;;

「銀のポットは保存性が良い。」こう言う話を聞いたことが有ります。 でも、普通に考えたら、有り得ない話です。

金属は、陶磁器に比べたら、遙かに熱を伝えやすい物質です。金属の中でも、非常に熱伝導率の低いステンレスでも、陶磁器の10倍くらい熱を伝えます。
熱伝導率の表を探したのですが、工業用電熱機器のトップメーカー「八光電機製作所」様のホームページに、良い資料がありましたので、ご覧ください。

【HAKKO 技術資料】この資料のP327 です。
(PDFファイルですので、表示にはアドビ・アクロバットリーダーが必要です。)


ここからは推測ですが、熱伝導率が非常に良いということは、ポットの中の熱を、ポットの壁が、ポットの壁の外面まで、非常に早く伝えるということです。
しかし、ポットの外面まで達した熱は、その後どうやって伝導していくのでしょうか??

熱を伝える三つの基本は、「伝導」「放射」「対流」の三つです。

このうち、ポットの内側から、ポットの外面まで熱を伝えるのは、その材質の「熱伝導率」に関係します。

八光電機製作所様の資料から抜き出させていただくと、主なものはこういった値になります。
物質温度
比重
g/cm3
比熱
J/Kg℃
熱伝導率
W/mk
2010.49234418
すず207.2922664
ステンレスSUS304207.8250216
七三黄銅208.5638599
石英ガラス202.217101.35
磁器絶縁物20〜1002.48001.4
陶器202.2〜2.510501〜1.6

上の熱伝導率から明らかなように、ポットの内面から、ポットの外面まで、熱が伝わる速度は、陶磁器や、ガラスのポットに比べて、金属のポットは、ステンレスを含めても、遙かに早く、冷めやすいはずです。

しかし、ポットの外面から、熱が外へ出て行かなければ、ポットは冷めていきません。

熱伝導のうち、対流は、ポットに直接触れることによって温められた空気の対流が、要因となります。
でも、当然、この対流は、ポットの形状には関係するかもしれませんが、ポットの材質には関係しませんよね。^^;

では、熱放射はどうでしょうか。

熱放射は、その表面の色に大きく関係します。

その物体に入射するエネルギーを完全に吸収する物体を「完全黒体」といいます。完全黒体の熱の行き来は、一方的でなく、放射物体としても、全てのエネルギーを放出します。

では、その反対は?
鏡面ですよね。

だから、魔法瓶の中は、鏡面になっているのです。
最近、防寒着の中には、内部にアルミ蒸着を施して、防寒性能を高めている製品がありますが、こういった原理なんですね。

そういった目で金属のポットを見るとぉ. ...。

金属のポットの表面は、汚れは別として、基本的には鏡面ですよね。
つまり、内部の熱は、ポットの表面までは非常に早く伝わるのですが、ポットの外には、なかなか出て行かないと考えられるのです。

ここまでの話は、あくまで、私の推定で、仮説に過ぎません。
この仮説が、本当にそうかどうかは、理論的に計算して、実験結果と合っていなければ、正しいとは言えません。
でも、今回の実験で、金属のポットが、常識に反して保温性が良いことは、間違いがないようです

この結果には、私自身、びっくりして、そして、ワクワクしています。今までの「美味しい紅茶のためのポットは?」という常識が覆るかもしれませんね。

ノーベル賞の、小柴教授や、田中さんではありませんが、常識にとらわれないことが、本当に重要です。


ということで、次回は、保温性能の一番良かったステンレスのポット、一番悪かったハリオのドナウ、そして、良いと言われてきたボーンチャイナのポット、そして今まで良くないと言われていたハリオールで、実際に飲み比べをしてみます。

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